やっぱり人間がいい
糖尿病の診療に携わってから長い年月が経過しました。大学を卒業した当時は初期研修制度はなく、ダイレクトに選択科に入局しました。迷って先延ばしという消極的な理由で内科系を選択し、内科系の中ならば目に見えにくいものにしてみようとこの分野を選択しました。その頃は比較的マイナーな分野でした。手術や内視鏡等を懸命に学ぶ同級生の姿に対し手技の習得がほとんどない分野で、学ぶといえば動物実験が主体でした。肥満や糖尿病のモデルですが、次々に動物舎に入舎してくるラットは白くてきれいで、なかなか愛らしい顔をしています。しかしその後の彼らの行く末を思うといささか不憫でもありました。<キミたちには何の罪もないけどね…>。臨床面はどちらかと言えば外来診療が主体だったと思います。しかし当初は栄養指導の他は数種類の経口薬とインスリン製剤。多数の患者さんを前に決め手がない状況も多々ありました。やがて食生活の欧米化で日本人特有のやせ型インスリン分泌低下型から肥満インスリン抵抗型に移行し、生活習慣病として注目されるようになりました。海外との共有で治療薬の選択肢も急増しました。しかしながら、いつの時代も全員に共通する基本的な治療は食事療法であることは言うまでもありません。いくら新しい薬を足しても、その後の食生活の乱れで簡単に帳消しになってしまいます。どんどん薬が上積みされ、あっという間に多剤併用状態。とは言え誰にとっても食べることは人生の大きな楽しみです。外来での押し問答<食べなきゃ痩せる><わかっちゃいるけど…>。どなたも経験済だと思います。食事療法の意義は理解しても、長年の習慣を変えることはなかなか困難です。長いこと体重増加(肥満)については決め手となる薬物療法が見出せませんでしたが、最近になり新たな肥満治療薬が登場しました。食事療法で不十分な場合、食欲抑制作用のある注射薬を併用することで体重減少効果がありました。その時の患者さんには満面の笑み。今では不得手なことをそのまま認めるのが教育の基本ですが、肥満増加の背景には過食と偏食があります。野菜は苦手、食事は全て外食という独居の方も大勢いらっしゃいます。アレルギー等を除けば幼少時から食べられるものを増やし、簡単な調理を経験することは生涯有益と思われます。現在、病院外来では肥満治療にも力を入れています。患者さんの喜ぶ姿でこちらも張り合いが出ます。動物もかわいいですが、太っても痩せても意思表示はありません。人間ならば喜怒哀楽の表情があり、お互いに嬉しく幸せな気分になります。やっぱり人間っていいな、という思いを噛みしめながら日々の診療を続けていきたいと思うこの頃です。
