~最近の医療界の変化について~

 皆さま、大変お世話になっております。前橋赤十字病院心臓血管内科の庭前野菊と申します。この度は『女性医師のリレーコラム ミネルヴァ』への寄稿機会を戴き、大変ありがたく存じます。

 私は平成8年に群馬大学を卒業し当時の第二内科に入局致しました。循環器内科医として県内の関連病院でお世話になり、今年28年目となります。現在は前橋赤十字病院で若手医師と共に、日々重症心疾患患者さんの診療に携わっております。今回のコラムでは、医療界の変化について勤務医の立場からお話したいと思います。

 私が大学に入学した時の数年上の学年では女性の占める割合は1割前後でしたが、我々の学年は100人中女性33人と全体の約3分の1を占めていました。ただ、卒業後に勤めた数々の病院では女性医師はまだ少なく、また医療業界は男性中心の環境が主流でした。女性が仕事と家庭のバランスを保ちつつ働くことは困難な選択であり、当時結婚していた私も妊娠しないことを条件にローテーターとして勤務していました。今思えば、当時は女性医師が妊娠出産を迎える際にサポートする体制が社会になかったため、妊娠した時には長期離脱を余儀なくされました。ギリギリの人数で待機などを回している病院で1人でも欠けたら現場の医療は成り立たないため、それも致し方なかったのだと思います。妊娠したらカテーテル治療に従事できないというのが暗黙の了解となっていましたし、そのため私より上の学年にカテーテル治療を行っている女性医師はほとんどいませんでした。仕事と家庭を両立させるという今では当たり前のことができない時代でしたので、私は仕事を選んで今に至っております。近年、この部分が大きく変わりつつあります。最近医学部の合格者数において男性より女性の方がわずかに多くなったことが話題になり、現場にいる女性医師が着々と増えてきました。その中で子育てしながらカテーテルをしたりオペをしたりする女性医師も増えてきました。同時に家事や育児に積極的に取り組む男性医師も増えています。私達の心臓血管内科は現在11人のうち4人が女性医師であり、最近は性別を全く気にせずに仕事しています。患者さんから女性医師を希望して戴くこともあります。このような変化は医療の多様性を高め、患者さんにとっても選択肢が増える良い影響をもたらしていると言えます。

 また、働きやすい職場環境についても改革が進んでいます。以前は循環器といえば長時間労働や厳しいシフトが一般的でしたが、今ではワークライフバランスを意識するようになりました。女性医師に対して柔軟な労働条件や育児支援、キャリアのアドバンスメントに対するサポートが増えており、女性が医師として働き続ける環境が整ってきました。女性が働きやすいということは、もれなく男性も働きやすくなります。当科では今年度産休に入る女性医師がいます。また、別の病院で医師として働いている奥様が長く育休を取れないことから、育休をとる予定の男性医師もいます。小さいお子様の子育てに積極的に参加しながら仕事をしている男性医師が何人もいるため、お子様や奥様が体調を崩した時に急に休んでも大丈夫なようにチーム体制を整えています。2024年度から始まる本格的な医師の働き方改革に向けて、すでに準備を始めています。医師の働く時間を適切に短くするのと同時に、日々進歩する最先端の医学を学びつつ技術を磨き患者さんに提供し続ける必要があります。一見相反することを進めていくためには、効率化を常に考えていかねばなりません。そのためには無駄を省き、タスクシフトを進めつつ、やりがいを見失わないようにしなければ、と考えております。

 未来に向けて大きな転換期を迎える中で、男女を問わず全ての医療従事者の多様性が認められ、誰もがやりがいを持って仕事できる環境が築かれることを願いつつ筆を置きたいと思います。

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