病院にいながら「生活を診る」医師でありたい

 皆様はじめまして。伊勢崎市民病院脳神経内科の原澤さくらと申します。研修医同期の、東吾妻町国保診療所の舘山佳那子先生からバトンを受けました。このような機会をいただけて誠に光栄です。

 私は高校時代、地域のプライマリケア医、それこそ舘山先生のような医師を目指していました。住み慣れた土地で心地よく過ごせるように、患者さんの生活をそっと助ける黒子のような存在に憧れていました。

 ポリクリに出るまで脳神経内科には興味がありませんでした。脳神経内科は小難しくて珍しい病気を扱うイメージで、私の興味の中心である地域医療とは離れた存在だと思っていました。しかしポリクリでそのイメージは覆されました。治らない病気の診断となってもそこで終わりではなくその後のことを何度も話し合うこと。難しい病気になる方は決して特別な方ではなく、それまで普通に地域で過ごしてきた方で、診断された後も地域で生きていくのだということ。今考えれば当たり前のことですが、当時の私には衝撃でした。脳神経内科がこれほど「生き方」に真正面から向き合う科だとは知らなかったのです。結局その後脳神経内科への興味は薄れることなく、入局しました。

 入局後はずっと病院勤務で、高校時代に思い描いていた地域のプライマリケア医とは離れたところで働いていますが、今も「生活を診る」ということを大事にしているつもりです。もちろん直接的に生活を支えているのは地域の先生ですので、あくまで私は「きっかけ」です。病気が見つかればその治療に全力を尽くすのは当然ですが、病気をきっかけに生活を工夫することも同じくらい大切と感じます。例えば、認知症がベースにあり退職後に時間を持て余し酒浸りになってしまった男性患者さん。日中の活動を促そうと思い、ケアマネさんに連絡しデイサービスを組んでもらいました。行き始める前は気が進まない様子でしたが、これも治療だと言ってデイサービスに通ってもらったところ、楽しんで通うようになりました。お話を伺ったところ、「この歳で一緒に風呂に入る友達ができたから嬉しい」とのことでした。どうやらケアマネさんが、同性・同世代の利用者さんが多い曜日にあわせて手配してくださっていたようです。この患者さんは次第にお酒を飲まなくなり、食事量は増え睡眠の質も上がり、全てが良い方に転じました。私が薬を出すだけではどうにもできなかったことが、病気をきっかけにケアマネさんを頼ったことでうまくいきました。

 このように病院の外での患者さんの生活に思いを馳せ、その思いが他職種や地域の方と通じ合い、良い方向に動き出したときにはこれ以上ないやりがいを感じます。

 まだまだうまくいかないこともありますが、経験を積み自分の引き出しを増やし、より「生活を診る」医師になれるよう精進していきます。

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