卒前からの医療安全教育を全国に広めたい
山田邦子先生からバトンを受け継ぎました、群馬大学大学院医学系研究科医療の質・安全学の田中和美です。山田邦子先生とは、群馬県医師会が運営する保育サポーターバンクの活動をはじめとして、様々な場面で「女性医師」として一緒に関わらせていただいており、尊敬する大先輩からバトンをいただけたことを大変光栄に思います。
今回私からは、医療安全教育について書かせていただこうと思います。医療安全教育というとどんなことを想像されるでしょうか。医療事故にどう対応するかやインシデントレポートの書き方などを想像される方が多いかもしれません。「現場に出てからじゃないとわからないんじゃない?」と言われることもしばしばです。
「医療安全」という言葉自体が広く浸透してきたのも、2000年を過ぎてからではないかと思います。私自身も、学生時代には「医療安全」に焦点を置いた授業はなかったように記憶しています。それもそのはず、世界保健機関(WHO)から、医療安全教育の指針である患者安全カリキュラムガイド多職種版が出されたのは2011年ですし、文部科学省が策定する我が国の医学部のカリキュラムの骨子を示す医学教育モデル・コア・カリキュラムでは、平成28年度改訂版(2016年)で初めて、医療の質と安全についての記載が盛り込まれました。
さて、それでは実際どんなことをしているかと言いますと、コミュニケーションやリーダーシップ、チームワークなど他者との関わりにおいて重要となる「ノンテクニカルスキル」や、「システム思考」、「質改善手法」などについて、グループワークを多く取り入れながら授業を行っています。不十分なノンテクニカルスキルは、重篤な医療事故の約半数で根本原因とされますが、医学的知識がまだ乏しい低学年でも、日常生活の中での経験に置き換えることで理解することが可能で、学年が上がるにつれ、医療現場における課題としても理解が深まります。私自身も、毎回学生たちの気づきから様々なことを学べてとても有意義な時間です。
全国に先駆けて始めた体系的な医療安全教育ですが、現在では、全国各地に仲間が増えつつあります。また、昨年度には、群馬大学多職種人材育成のための医療安全教育センター(PSEC)が設置され、文部科学省により共同利用拠点の指定を受けました。医療安全は、一つの施設の中でだけ実現できても意味がありません。いつか卒前から医療安全を学んだ医療者が、県内各地、さらに日本全国で活躍してくれることを期待しつつ、PSECを通して、さらにたくさんの仲間を増やし、医療安全教育の普及、発展に尽力したいと思います。今後とも、ご指導、ご鞭撻を何卒よろしくお願い申し上げます。