もしもを想定することから

 羽鳥麗子先生よりバトンを受け継ぎました龍城と申します。縁あって群馬大学医学部附属病院地域医療研究・教育センタースキルラボで、施設の管理・運営やシミュレーショントレーニングに携っています。

 ところで、地震など災害への備えはされていますでしょうか?私は、初めての避難訓練で災害に関心を持ちはじめた息子と、先日「そなエリア東京」という防災体験施設に行って参りました。日常生活ではなかなか考える機会のない“災害発生から72時間をどう生き延びるか”をテーマとした施設です。エレベータ内で首都直下地震が発生したと言う設定で、災害で変わり果てた街並みを抜け避難するという、なかなか他では得られない体験ができます。実物大に再現された避難所には、数十本のペットボトルで作る椅子、ビニール袋の三角巾、赤ちゃん用段ボール製コットなど、自助・共助の知恵が沢山詰まっていました。息子も「地震で火事が起きるんだね。電気が消えると何も見えないし、電車も止まっちゃう。夜は寒くて寝られないんだね。」と、“もしも地震がおきたら”を自分なりに想像したようです。百聞は一見に如かずとはこのことで、たくさんの学びがあったと同時に、医療現場においては私たちの活動の役割がこの施設と同じではないかと思いました。

 私たちの活動一つに保育園や学校、在宅などの現場で活躍している看護師の皆様を対象に行う医療的ケアの実技研修があります。この研修では限られた医療資源で行う看護ケアについて、現場に活かせるように様々な事例を想定し、その対応について学習・体験します。例えば「気管切開児が痰で気道狭窄を起こした際に、電動吸引器が故障していることが判明した。児の所有物で、園内にはこの吸引器しかなかった。」このような緊迫した場面で、どのような対応ができるか、という研修があります。電動吸引器に代わる手動式の吸引器は、電動に劣らない吸引力をもち、外出時・入浴時にも活用できます。しかしその準備がある施設は全体のわずか3割です。実際には緊急時にこそ役に立つ備品であり、その普及を助けたのは東日本大震災だったそうです。それが手に入らない環境ではどうすれば良いでしょうか。震災時には、往診医の先生からの発案でペットボトルを活用した吸引器を作ることで難を逃れたと聞いております。現場からのアイデアがどれだけ多くの患者さんの心と命を救ったか、そしてそのやり方を共有することで今後も救われるかは想像するに余りあります。  もしもを想定してみると、見慣れた街並みも診察室も違う景色が見えてくるかもしれません。過去の災害から学び、もしもを想定し準備すること。そして情報を共有し、体験を重ねること。このことが医療現場でも重要であり、これからも微力ながら活動を通して貢献していきたいと思える経験でした。

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