最近考えていること

 前橋市医師会の直田です。市内で小児科と内科を継承し、医師会の運営業務にも携わっています。今年は医師になって丁度30年目。日々、忙殺されながらそれに気づき、ふと呟くとそばにいた息子に“こんな仕事よく30年もまあ。”と言われました。こんな仕事?と尋ねると、色々な意味を含んでのこんな仕事です。と深すぎる返事。
 私は平成4年に埼玉医大を卒業し、女性医師割合の高い小児科へ入局しました。今でこそ産休・育休・時短復帰等の選択肢は増えたようですが、当時は妊娠したら休職するか退職するか。復帰にしてもハードルは高く、退職してバイトしているといった同僚先輩が沢山いました。その後、改革が進み働きやすくなったとはいえ、まだまだ課題は多そうです。医学部の男女割合がほぼ均等になり、私の母校は女性の方が多い学年もあるなどという話を聞くと、頼もしく感じます。世界に眼を向けても女性の政界、経済界への進出は目覚ましい限りです。最近では男性の育児参入も珍しくなくなり、育休を取るお父さん、受診は勿論、健診・予防接種にも積極的に連れてくるお父さんの姿が普通になってきました。女性の社会進出が普通の景色になり、男性の育児参入が普通の景色になってきました。今後は多様性を認め始めた世界中に共通の課題かと思います。幸か不幸か、シングルとして子育てをすることになった私は仕事と育児の両立をするために両親・保育園・ベビーシッター等、ありとあらゆる手段を使いました。息子と二人で3年半ほどアメリカに住んでいた時も民間の学童保育、友人の手を借りて何とか無事に過ごすことが出来ました。
 Equalityという言葉があります。これは平等という単語ですが、誰もが差別なくみんな等しいという事です。でも、これでは手にする物や事象は同じでも状況によっては平等にはなりません。では、Equityでは如何でしょう? 公平という単語です。同じ物事が手に入るとします。ある人には必要のない物事かもしれません。また、ある人には1つで済むけど、またある人には3つ必要かもしれません。必要な人に必要な数が行きわたれば公平になります。一概にはこれが正解というわけではなく、全てにおいて適用される事ではありませんが一定の条件下では重要であると思っています。
 私は医師の世界しか知りません。医師の中にも色々な思いを感じながら生活している方は沢山いると思います。
 男性・女性の性別に関係なく、子育てを含めてやりたい仕事がやりたいように出来る社会がこれから先の日本にもっと浸透していくようになればいいなあと子育て終了間近になって考えるようになりました。
 息子の“こんな仕事”の本当の意味は分かりませんが、医師の仕事に加えて子育てを含んだ社会生活が含まれているような気がしています。
 人生は一度きり、その中で生きていくために最低限のルールはあるけれど、無理せず、楽しく、誰も犠牲にならずに済む世界となるように。こんな仕事が、“こんな素敵な仕事”というように変わっていけばと願っています。

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